俳句集

 

「俳句は心のスケッチ」 

 

 

2022  

 

 

貿易大学

ハノイ大学

ハノイ国家大学 外国語大学

銀行学院

ハノイ国家大学 人文社会科学大学

 

 

 

20228月から9月にかけてハノイの五つの大学・学院で特別授業「俳句は心のスケッチ」を開きました。日本語を学ぶ学生の皆さんだけでなく、先生やゲストの方々にもご参加いただきました。

 

 

どうか皆さんの俳句を味わい、楽しんでください。

 

なお、学生の皆さんはお名前のABC順に、ゲストの方々はあいうえお順に掲載しました。

 

 

 

1

白壁に  青春の火の  FTU

しろかべに  せいしゅんのひの  えふてぃゆー

Trần Minh Anh

貿易大学

 

白い壁面いっぱいに大きく赤く「FTU」と描かれている。美しいFTU。誇らしいFTU。胸に青春の火が燃える。

貿易大学(Foreign Trade University)は経済系の一流大学です。ベトナム最難関大学の一つで、教育の質は高く評価されています。古くから外国語教育に力を入れ、中でも日本語教育についてはベトナムで最も長い歴史を誇ります。学生は起業家精神に溢れています。T先生の教え子の中にも卒業後数年のうちに経営者として独立し、夢を実現しようと精一杯活躍している人が多いです。作者はFTUで勉強できる喜びと自信を「青春の火」に表しています。 

白い壁  赤い字がある  青春の火

 

 

2

八月の  夏の光に  心新た

はちがつの  なつのひかりに  こころあらた

Phạm Ngọc Anh

貿易大学

 

まだ暑く、汗びっしょりの毎日。でも、8月に入って太陽の光が少しだけ柔らかくなった。もうすぐ新学期。過ぎた1年間の反省をもとに新しい気持ちでがんばるぞ。

あっという間に1年が過ぎた。しっかり勉強したか、しっかり遊んだか、友達や先生としっかり話したか。反省することはたくさんある。もっと成長するようにがんばろう! 

夏光  細め二つ目  もう8月だ

 

 

3

雨降りも  君と話せば  花が咲く

あめふりも  きみとはなせば  はながさく

Đỗ Quỳnh Anh

貿易大学

 

降り続く雨。外出できないし、部屋の中は蒸し暑い。気持ちが暗くなります。そんな時に恋人から電話がかかってきた。花が咲いたように明るい気持ちになりました。

次々に話題が出て、楽しく明るいおしゃべりが続くことを日本語で「話に花が咲く」と言います。遠くにいる恋人と話ができた。それはうれしくて花が咲いたようでしょう。

空が晴れても、雨が降っても。 

雨が降る  君と話せて  花が咲く

 

 

4

紙のうえ  字も夢もかく  青インク

かみのうえ  じもゆめもかく  あおいんく

Nguyễn Trâm Anh

貿易大学

 

真っ白な紙に万年筆の青インクがすべる。手紙を書く、日記を書く。同時に大きな夢も描く。

真っ白な紙。まあ、紙はそんなに高くないから高級紙でも買える。万年筆はちょっと高いから高級なのは買えない。でも、なめらかな紙に青いインクがすべるようだ。字も夢も気持ちよくかける。 

青ペンが  紙の上で書いて  夢もかく

 

 

5

藁を燃す  揺れる煙に  母の顔

わらをもす  ゆれるけむりに  ははのかお

Trần Phương Ánh

ハノイ国家大学 外国語大学

 

藁が積もり、小さな山になっています。母はそこに火をつけて料理を作ります。揺れる煙の中に母の顔が浮かびます。

私の故郷はハナムです。田舎ですから電気釜ではなく、藁をたいて火をおこし、家族の料理を作ってくれます。ゆらゆら立ち上る煙に母のイメージが重なります。藁の山を見るたびに母への感謝が心に浮かびます。 

藁の山  薪の煙   成長する

 

 

6

ガラス窓  部屋輝かす  電球だ

がらすまど  へやかがやかす  でんきゅうだ

Phùng Thị Bích

ハノイ国家大学 人文社会科学大学

 

私の部屋はガラス窓。とても明るいです。大きな電球が輝いているようです。

ガラス窓は大きな電球。本を照らし、机を照らし、私を照らし、部屋の中全部を照らす。この大きな電球の下、一生懸命勉強して知識を広げ、世界を広げるのだ。 

グラス窓  部屋が明るく  電球だ

 

 

7

緑の木  雀の子たち  初飛行             

みどりのき  すずめのこたち  はつひこう

Vi Thị Kiều Chinh

貿易大学

 

冬が過ぎ緑の若葉が芽を出した。巣の中でお母さんに守らていた雀の子。温めてもらったり、餌をもらったり。その子たちが枝から枝へ少しずつ少しずつ。

遠くへはまだ飛べません。速く飛ぶこともできません。高い枝から落ちちゃうんじゃないか。敵に襲われるんじゃないか。でも、だいじょうぶ。初飛行に成功すれば、自分で餌を探せる。友だちと遊べる。 

緑の木  雀が空を  飛んでいる

 

 

8

目を閉じて  未来は見えぬ  でも進む

めをとじて  みらいはみえぬ  でもすすむ

Bùi Thị Bích Diệp

ハノイ国家大学 人文社会科学大学

 

目を閉じるたびに未来が見えるようにと祈ります。幾分の不安と心細さを抱いているが、前に進みます。

進学か就職か? ハノイに残るか故郷に帰るか? どんな自分になりたいか? 友達とも話した。先生にも相談した。しかし、自分の可能性が分からない。どうするべきか分からない。確かにそういう時があります。T先生は「本を読んでごらん」と勧めます。中でも「金子みすゞ」の詩は言葉は易しく、そして心は優しいです。きっと励ましてくれますよ! 

目を閉じて  未来を見えぬ  でも進む

 

 

9

晴れた朝  足取り軽く  外歩く

はれたあさ  あしどりかるく  そとあるく

Nguyễn Thị Hạnh

貿易大学

 

長く続いた雨が夜の間に上がって今朝は晴れ。重いかばんを持って学校へ行く道も足が弾みます。

台風が近づいていました。3日も4日も強い雨が続き、外出はたいへんでした。その台風も北の方へ去って、今朝は久しぶりの晴れ。太陽の光が気持ちいいです。 

晴れの時  外へ行くこと  気持ちがいい

 

 

10

葉を揺らし  心を揺らし  風が吹く

はをゆらし  こころをゆらし  かぜがふく

Lê Thị Huệ

ハノイ大学

 

夏の夕方、林の中をさあーっと風が吹きました。ざわざわざわ 葉を揺らします。蒸し暑い空気を吹き飛ばし、体が涼しくなると心もさわやかになります。

暑い夏。湿気が体にまつわりついて汗が流れます。木の葉もじっと動かず、暑さに耐えているようです。そんな時に一度だけでも強い風が吹くと、枝全体がゆさゆさ揺れ、木の葉がざわめいて喜んでいるようです。今日も一日暑かった。さあ、夕方だ。涼しくなるぞ。 

風が吹く  葉っぱと心を  揺れている

 

 

11

バラの花  言葉の上に  咲いている

ばらのはな  ことばのうえに  さいている

Nguyễn Thị Thu Huyền

ハノイ国家大学 外国語大学

 

初めての俳句作り。教室の中、窓の外、あっちこっち目をやって言葉を集めてみた。なかなか五七五に並ばない。でも、きれいな言葉の中にバラの花が見えたよ。

俳句作りの最初の仕事は言葉をたくさん集めることです。目に見えるものだけでなく、耳で、鼻で、舌で、皮膚で感じるもの。名詞、動詞、形容詞。集めた多くの言葉を五七五に並べ替えるのです。もちろん心に感動がなければなりません。感動第一、技術は第二です。

バラ花が  言葉の上に  咲いている

 

 

12

青空に  つばさを広げ  小鳥たち

あおぞらに  つばさをひろげ  ことりたち

Hoàng Mai Liên

ハノイ国家大学 外国語大学

 

小鳥たちが広い青空に向かって飛ぼうとしています。

私は何気なく窓の外の景色を見ていた。大きな木の枝に小鳥たちが集まって翼を広げ、青空に飛び立とうとしているのが見えた。その時、ふと勉強や仕事に忙しく、自由に動けない自分に気が付いた。あの小鳥たちのように自由に空を飛びたいと思った。 

この俳句はLiênさんが作ったままです。Liênさんの素直な心がこの句の中に感じられます。

 

 

13

部屋の窓  空を見上げる  女の子               

へやのまど  そらをみあげる  おんなのこ

Nguyễn Thị Phương Liên

ハノイ大学

 

部屋の窓から空を見上げます。悲しい目をしています。

私は女の子。小さな部屋に入れられて外に出られません。好きなことができない。行きたいところへ行けない。空を見れば雲がゆっくり流れていく。あの雲に乗りたい。どこか遠くへ行きたい。 

女子がいる  部屋の窓から  悲しい目  空を見あがる

 

 

14

曇り空  もう四年生  早過ぎる

くもりぞら  もうよねんせい  はやすぎる

Đàm Triệu Thảo Linh

ハノイ国家大学 人文社会科学大学

 

この間入学したと思ったのにもう四年生。なんて早いんだろう。曇り空が心を寂しくさせる。

月曜日、私たちは新学期を迎えるために大学に行きました。空は雲っていました。「ああ、4年生になったんだな。」時間があっという間に過ぎたように感じて、喜びと悲しみが入り混じりました。 もうすぐ卒業できるうれしさとこれから社会人生活に入っていく寂しさとが半分半分。 

くもり空  四年生なった  早いかな

 

 

15

バスの窓  雨粒の中  虹の橋

ばすのまど  あまつぶのなか  にじのはし

Nguyễn Thùy Linh

ハノイ国家大学 人文社会科学大学

 

夏、バスに乗ったら突然雨が降り始めた。大きな雨粒。しかし、雨の後には太陽が再び輝く。見上げれば大空に弧を描く虹の橋。そして、窓ガラスの小さな小さな雨粒の中にも。

だれの人生にも困難に直面したり、嵐が来て私たちを濡らすことがあるだろう。しかし、雨はいつまでも続くものではない。苦難の向こうに私たちを待っているのは幸せの色だ。 

バスに乗って  雨が降っていた  虹が出た

 

 

16

花びらが  水面に落ちる  空消える

はなびらが  みなもにおちる  そらきえる

Dào Thị Trà My

銀行学院

 

庭の隅に水槽があります。隣にブーゲンビリアの木が立っています。赤い花びらが散って、そっと落ち、水面を揺らします。揺れの広がりとともに水面に映った空が徐々に消えていきます。 

枝から離れ、散っていく花びら。ひらひらと舞い落ちて水面にさざ波が広がる。水面に映った空も雲も姿を消してしまう。赤い花びら、青い空、白い雲が入り混じる。動きと色の変化を感じさせる美しい俳句です。

 

 

17

友に会う  高校時代に  また帰る

ともにあう  こうこうじだいに  またかえる

Tạ Thị Bích Ngọc

貿易大学

 

デパートで偶然、高校時代の親友に会った。卒業してから今まで久しぶり。懐かしさのあまり大きな声で明るいおしゃべり。無邪気で幸せだったころの思い出がよみがえった。

友達はたくさんいます。でも、親友と呼べる人は多くない。いや、5本の指で数えられるくらいかもしれない。どんなに長い間会わなかったとしても、すぐ打ち解けて話が弾む。懐かしい友、大切な友、生涯の友。 

デパートで  ともだちにあう  きねんをみる

 

 

18

孫包む  祖母の背中に  夏の陽が

まごつつむ  そぼのせなかに  なつのひが

Bùi Thanh Phương

貿易大学

 

夏の太陽がおばあさんの背中に照りつけます。その暑さを避けるようにおばあさんが胸に優しく孫を包み込んでいます。

作者によるとバスの中の光景だそうです。孫のために日差しを遮るおばあさんの愛情に感動してこの俳句を作りました。夏の太陽は本当に強いです。大人でもぐったりしてしまうでしょう。 

バスの中  祖母さんの背に  晴れがある

 

 

19

バイクバス  機械の中に  セミの声

ばいくばす  きかいのなかに  せみのこえ

Lê Thị Thanh Tâm

ハノイ国家大学 人文社会科学大学

 

バイク、タクシー、バス、スピーカー、人混み。都会は機械の音に溢れています。そんな中にふとセミの鳴き声。

私の故郷は静かな田舎。鳥、カエル、セミ、林の風、川の水。一方、ハノイでは大学前の大通りはもちろん、商店の連なる裏通りにもブーブーべーべーバタバタ。機械音ばっかり。ストレスがたまってしまいます。そんな機械音に交じって、わっ!セミの鳴き声が聞こえる! 

機械音  セミが聞こえる  気が済んだ

 

 

20

花嫁は  白装束に  目は赤く

はなよめは  しろしょうぞくに  めはあかく

Phạm Thị Thủy

ハノイ国家大学 外国語大学

 

お姉さん、おめでとう!大勢のお客様、結婚式場、飾られた花々。白いきれいなお姉さん。その目は感激で赤くうるんでいます。

白は純潔を意味します。また白がどんな色にも染まることから、日本では嫁いだ家の生活態度に染まるようにという意味が含まれています。この点はベトナムではどうでしょうか。 

花嫁は  白いにきれい  目が赤く

 

 

21

ドラキュラが  顔を背ける  光から

どらきゅらが  かおをそむける  ひかりから

Trần Thế Trung

銀行学院

 

おれはドラキュラだ。吸血鬼だ。夜に生きる。おっと!朝の光が差してくる。逃げろ逃げろ!

ドラキュラは背が高くやせた老人です。目は燃えるように赤く、長く鋭い歯からは血がしたたり落ちます。女性の血を吸って若返ります。女性の皆さん!夜遊びをしないで家に帰りましょう。漢字「安」を見てください。安心の「安」です。ほら!漢字「宀」は家の意味ですね。女の人が家の中にいます。そうすれば安心です。 

清い夜  顔を背ける  光から

 

 

22

夕陽浴び  ざわめく田んぼ  コウノトリ

ゆうひあび  ざわめくたんぼ  こうのとり

Nguyễn Cẩm Tú

銀行学院

 

遠くの山裾まで広がる田んぼ。夕陽を浴びて何羽かのコウノトリ。ここにおいしい餌があるぞ。みんな集まれ!こっちだこっちだ!鳴き交わす声が聞こえます。

見わたす限りの田んぼ。西の空に傾き始めた太陽。大型のコウノトリが餌を見つけました。カエルかトカゲかヘビか。ベトナムでは「コウノトリが飛ぶ畑」は「広大な」という意味だそうです。スケールの大きい俳句です。 

西明かり  ざわめく田んぼ  コウノトリ

 

 

23

俳句には  自分の言葉を  考える              

はいくには  じぶんのことばを  かんがえる

Lê Long Vũ

貿易大学

 

自分の感動。自分だけの感動。自分だけの言葉。自分だけの俳句。

自然にはもちろん、社会にも生活にも感動があります。その感動を言葉にする。どの言葉が最も的確に表現できるか。自分が知っている言葉で十分でないなら、辞書で調べてもいいでしょう。インターネットで探してもいい。ただし、自分でね。 

俳句の時間  我の言葉  よく浮かべるんだ

 

 

24

学生は  慣れぬ先生  声ひそか

がくせいは  なれぬせんせい  こえひそか

内野英治(うちのえいじ)

ハノイ国家大学 外国語大学

 

今日はT先生の特別授業「俳句は心のスケッチ」。学生たちにとってT先生は初めて。声も進め方も内容も私の授業とはだいぶ違う。皆さんはかなり静かだな。普段は笑い声やいたずら声も聞こえるが 

T先生はお客様じゃないよ。静かにしていなくてもいいんだよ!いつものように元気よく!内野先生の学生に対する愛情と励ましが感じられます。

 

 

25

扇風機  羽をやすめる  晩夏の夕

せんぷうき  はねをやすめる  ばんかのゆう

小堀真樹(こぼりまさき)

エボルテック株式会社

 

教室の壁にかかる扇風機。今は動くのを止め、静かに羽を休ませている。そうだ!もう夏も終わり。秋が近い。 

座っている学生たちに向かって扇風機が首を垂れているようだ。一生懸命働いた酷暑の時期はもう過ぎた。少し疲れたが、安心でもある。皆さん、来年もまたがんばるよ!機械としての扇風機に心はないでしょう。しかし、作者は学生の皆さんにがんばってほしい気持ちを扇風機に託してこの俳句を作りました。

 

 

26

鶏に訊く  いつ友だちに  会えるかと

とりにきく  いつともだちに  あえるかと

佐藤慶子(さとうよしこ)

ハノイ国家大学 人文社会科学大学

 

コロナでハノイに行けない。大学は始まっているのに…。友だちに会える日を故郷で待つばかり。いったいいつになったら友だちに会えるのか…。鶏が羽を広げ、餌を探し、自由に遊んでいる。あ~あ、訊いても答えはないけれど、その鶏がうらやましい。

パンデミックでずっと学生とオンライン授業をしていました。みんな実家にいるので、家族の声や庭の鶏の鳴き声など生活音満載の授業でした。そんな中である学生が私に「先生、早く学校に行きたいです」とメッセージをくれました。せっかく国家大学の学生になったのに、1年生は入学式もなく、そもそもハノイにすら来ていない。クラスメイトとはオンラインの画面越しにしか会ったことがありません。そんな学生の気持ちに胸が痛くなりました。

 

 

27

らくがきに  井の中にいる  我を見る

らくがきに  いのなかにいる  われをみる

藤垣晃司(ふじがきこうじ)

エボルテック・ベトナム株式会社

 

机にいろいろな落書きが書かれている。英語の、ベトナム語の、韓国語の落書き。おや 日本語のがないぞ!

ベトナムの皆さんが日本語でも落書きを書いてくれるようになったらいいなしかし、この私は英語で落書きが書けるかしら。ベトナム語で書けるかしら。世界の皆さんに日本語を勉強してもらいたい。そして自分も勉強しなければ。井戸の中にいて、広い世界を知らない自分。そんな反省の気持ちをこの俳句に表しました。

 

 

28

俳句よむ  日本の心  考える             

はいくよむ  にほんのこころ  かんがえる

Nguyễn Đăng Hoàng

エボルテック・ベトナム株式会社

 

俳句は日本の文学形式の一つ。私はベトナム人だが、俳句を詠むとき、俳句を作るときは私の持つ知識、経験を全部使って日本の心を理解しようと考える。

下は有名なベトナムの詩「Kim Vân Kiều」の冒頭の一節です。六八六八の語が並んでいます。また六番目の語が韻を踏んでいます。

  Trăm năm trong cõi người ta   Chữ tài chữ mệnh khéo là ghét nhau

  Trải qua một cuộc bể dâu   Những điều trông thấy mà đau đớn lòng 

一方、日本の俳句は小林一茶の「やれ打つなはえが手をする足をする」に見るように五七五の語が並んでいます。韻はありません。しかし、五七または七五の音の配列は日本人の血の遺伝子に組み込まれたかのように千数百年の昔から脈々と続いてきて、心地よい響きとして聞こえます。Hoàngさんは俳句を通して日本の心を知ろうとしています。

 

 

【あとがき】

 

講義に参加してくれた皆さん、俳句を送ってくれた皆さんに改めて感謝します。若い皆さん!豊かな感性を持ってこれらを鑑賞してください。

 

俳句はたいへん短いからこそ読み手の想像にゆだねられる部分が大きいです。言い換えると、想像が広がっていく俳句こそ優れていると言えるでしょう。教室でも話しましたが、直接言わないところが面白い点です。

 

古池や  かわず飛び込む  水の音          松尾芭蕉

池のほとりの岩に上った一匹のかえるが小さくポチャンと音を立てて水の中に飛び込んだ。ポチャン… 一回だけ。その音に古池の静けさが表れています。

 

除夜の妻  白鳥のごと  湯浴みおり          森澄雄 

私のため、家族のために働いてくれる妻。一年の最後の最後、すべての仕事を終えた妻がお風呂に入っている。美しい白い体を白鳥に例えています。「ありがとう」という言葉はありません。しかし、妻に対する心からの感謝といたわりが感じられます。

 

 

皆さんはここに発表した俳句を詠み、そしてもっと作ろう… そんな気持ちになったら、私に送ってください。また、私のウェブサイト「T先生のベトナム語・日本語教室」の中のタブ「俳句教室」もぜひご覧ください。

 

それでは最後に私も…

 

久々の  ハノイの庭に  緑濃し

ひさびさの  はのいのにわに  みどりこし

久し振りに帰ってきたハノイ。校庭に立つ大木。緑の葉が濃い影を落としている。

ハノイで15年暮らした。生活の中心は大学で日本語を教えることだった。教室が浮かぶ。教え子たちが見える。楽しげなおしゃべりが聞こえる。この校庭のこの緑の下で語りあった。

「ひ・び・い・に・に・み・り・し」と「イ」音が連なり、軽快に響きます。 

 

2022107

鷹野次長

たかのつぐなが