させていただく 

 

敬語表現は日本語を勉強する皆さんにとって微妙で難しい問題の一つでしょう。今回は相手から利益を受ける表現「~させてもらう」の丁寧形「~させていただく」について考えてみましょう。

 

T先生はそれを「させていただく病」と呼んでいますが、なんでもかんでも「~させていただく」と使う。そうすれば丁寧だと思っている。敬語だと思っている。 ところが「~させていただく」はけっこう難しい言葉で、間違えた使い方を聞いて違和感・不快感を感じる人も少なくありません。 

 

「~させていただく」には二つの条件が必要です。

自分の行為について相手の許可・同意が必要。  その行為が自分の利益になる。

例えば、

明日の約束でしたが、子供を病院に連れていかなければならなくなったので、明後日に変更させていただきたいのですが

     時間の約束を自分の都合だけで変えることはできない。

        相手の許可・同意が必要。また、その許可・同意によっ

        て、話し手は病院に行くことができる。だからこの使い

        方は正しい。

先生の授業を見学させていただけますか。

     授業を先生の許可・同意なく見学することはできない。

                                                                         また、その許可・同意を得ることが話し手の利益になる。

                                                                         だから正しい。

◆その資料、コピーを取らせていただけませんか。

    相手の資料のコピーを取るには許可・同意が必要。資料を手に入れれば話し手の利益になる。

        だから正しい。

次は間違いの例、

今日のコーヒー代は私に払わせていただきます。

     話し手がコーヒー代を払ってくれるなら、それは聞き手の利益。

        だから間違い。「今日のコーヒー代は私がお支払いいたします」でよい。

◆○○大学を卒業させていただきましたミンです。

    卒業するのに聞き手の許可はいらない。だから間違い。

      「○○大学を卒業いたしました。ミンと申します」でよい。

◆ロアンさんとは同僚として5年間働かせていただきました。 

    同僚として働く場合にロアンさんの許可はいらない。また同僚として働く

       ことが話し手に都合がいいとも言えない。だから間違い。

     「ロアンさんとは同僚として5年間働いてまいりました」でよい。

上のような場合は「~させていただきます」の代わりに「~いたします」が適切です。

 

ではなぜ、こんな使い方が広まったのでしょうか? T先生はその一つの原因が10年ぐらい前からの政治家たちの発言だと思います。何でもかんでも「~させていただく」。丁寧に、そして国民を大切に思っていることを示そうとして「~させていただく」。良くも悪くも有名人だから影響は大きい。

ただし、言葉の使い方は時代とともに変わります。「~させていただく」も丁寧表現としてだんだん受け入れられ、自然に使われるようになるかもしれません。例えば次の例はT先生にはおかしく感じられますが、現状では多くの人に受け入れられているようです。                  昨日お電話させていただいたフォンです。                                          聞き手の許可を求めて電話したのではないから間違い。         

      「昨日お電話いたしましたフォンです」でよい。