向こう見(え)ず 

 

こんなことをしたら先がどうなるかを考えない、大胆といえば大胆、危なっかしいといったら危なっかしい。思ったことをいきなり行動に移す人のことを「向こう見ず」と言いますよね。ハノイでハラハラすることはいろいろありますが、その最たるものはやはりバイクです。

見た感じでは、交通の2割が自動車、1割が自転車、あとの7割全部がバイク。路線バスかタクシーを除けば公共交通機関のないハノイとしては仕事にも学校にも遊びにもバイクが一番なのでしょう。ラッシュアワーには川というか帯というか、歩道にまで乗り上げて雲霞のごとく行き交うバイクを見ていると目が回ってしまいそうです。子供の時にやりましたでしょう?素手でトンボ取り。トンボの前でぐーるぐーるぐるぐる指を回して目が回ったトンボを捕まえるやつ。正にあれですよ。

広い道路も埋め尽くさんばかり。これが信号もない交差点でバスだ、自転車だ、トラックだ、人間だ、乗用車だ…。その中へ我れ先にと突っ込むバイクの大群。もうゴシャゴシャの、圧倒される思いです。しかも、そんな中にいろんな「向こう見ず」がいるんです。いや、正確に言えば「向こう見えず」なんですが…。

 

南のホーチミン市は完全に熱帯性気候で雨も豪放磊落。バケツをひっくり返すと言うんでしょう、前が見えなくなるほどの大雨がドサーッと来ますが、待っているうちに青空が回復します。

その点、ハノイは亜熱帯に近く、雨も小降りで長時間。そんな日はたいてい雨合羽を着てバイクを運転するのです。ハンドルを握る人が雨合羽をかぶるのはいい、問題はその後ろにまたがる人です。前の人のすそを頭にひっかぶるのです。だから全然前が見えない、後ろも見えない。ただ下を向いているだけ。しかも、時には1台に3人ぐらいがそんな格好でやっているのです。すぐ後ろの人は少なくとも運転手にしがみついていられる。ところが3番目の人ときたら、片手で雨合羽を押さえ、もう片手で自分の腰の下の荷台につかまなくちゃならないんです。雨の中を…ひたすら地面を見ながら。

 

そうかと思うと、持てるものならテレビでもテーブルでも、豚でも鶏でも何でもかんでも運んでしまうバイク。何回か見かけましたが、運転手の後ろで、ショーウィンドーにでも据え付けるような大きな鏡を抱えて乗っている人がいるのです。縦1メートル半、横1メートルにしたって前が見えるわけがない。両手で抱えていますから単に荷台に座っているだけ。辛うじて足で踏ん張っていると言えなくもないが、これでバイク同士接触したらどうなるんだっ!

 

そう言えば、ハイヒールで乗っている向こう見ずなお嬢さん。一方で裸足のお兄さん。大きな子をハンドルとの間に立たせ、お父さんが運転し、後ろに次の子を座らせ、赤ちゃんを抱っこしてお母さんが最後にまたがり、なんていう向こう見ずな一家5人乗り。サーカスじゃあないんだから!こんな話が出るたびに私は力説するのです。多数の死傷者を出しているのは本人、家族はもちろん国家的損失。ブラブラしている青年男女がいたら交通警察にしたらどうだ。罰金を取れば安全は強化される、警察官の給料はまかなえて失業問題解消につながる…。