卒業記念俳句集

 

「俳句は心のスケッチ」

 

 

2022

 

 

飛鳥学院

1Dクラス

 

 

 

(たか)()(つぐ)(なが)

 

 

 

 

 

20221213日、飛鳥学院の教室で日本の有名な俳句や学生の皆さんの俳句を紹介し、そのうえで俳句の作り方を勉強しました。1220日、日本晴れの素晴らしい天気の下、野毛山公園に出かけて俳句を作りました。教室内では考えられない感動的な俳句ができました。

  

この俳句集には日本語の俳句だけでなく、ベトナム語で考えた俳句もあります。その語彙は単音節ですから、声に出して読むと俳句と同じ五七五になっています。どうか皆さんの俳句を味わい、楽しんでください。

 

 

 

 

初詣  お大師様に  無事祈る

はつもうで  おだいしさまに  ぶじいのる

レ・ティ・ミイ・ハイン

 

ベトナムや中国の正月は旧暦で祝いますが、ここは日本。多くの皆さんと同じように初詣に出かけました。年配者も若者も子供達もきれいに着飾って、今日の天気のように晴れ晴れとした顔をしています。遠い故郷にいる家族や友達みんなの無事を祈りました。 

川崎大師は横浜市の隣、川崎市にある大きなお寺です。開運、家内安全、健康長寿など「厄除けのお大師様」として知られ、例年、300万人もの人々が初詣に訪れます。お大師様への参道には外国人の私には珍しいだるまや招き猫やお菓子を売る店が並んでいます。今年、私も川崎大師に行きました。  

しょうがつ  じんじゃにいく  ぶじを祈る

 

 

坂道の  落ち葉の中に  足跡が

さかみちの  おちばのなかに  あしあとが

ド・ティ・ホアイ・リン

 

学校から野毛山公園まで約15分。急な階段や坂道を上っていきます。お年寄りが一歩一歩足元を確認しています。若い私たちにも楽じゃない。ふうーっ、ちょっと休まなくちゃ。道端にサクラ、イチョウ、カエデなどの落ち葉が吹き寄せられ、その赤や黄色や茶色のふかふかした中にすっぽり私の足跡が 

今は12月。冬の始まり、風が冷たい。野毛山公園は標高50メートルの丘陵地帯にあります。動物園やバラ庭園や展望台があり、林の木の間隠れに富士山が見えます。飛鳥学院は大岡川に近く標高

8メートルですから、ずいぶん上らなければなりません。  

坂道を  落ちた花びら  足跡だ

 

 

高台に  見える全部が  僕の街

たかだいに  みえるぜんぶが  ぼくのまち

グエン・ヴァン・ミン

 

野毛山の展望台に上った。高い、高い!ぐるっと360度見渡せる。足元の家々、飛鳥学院を囲むビル、港の向こうのオフィスや高速道路や工場群 そう!これら全部が僕の街、横浜。 

横浜は人口約378万人。東京に次ぐ大都会です。単に大きいだけじゃない。江戸時代末期に開港したミナトヨコハマは国際貿易都市、経済産業都市として発展を続けています。鉄道、水道、ガス、新聞、銀行、電話など日本で最初に事業が行われました。山下公園、港の見える丘公園、この野毛山公園など美しい公園がたくさんあります。もちろんコスモワールドや中華街のような遊ぶところ、食べるところも。街の人々は世界のどこよりも横浜を愛しています。  

たかいから  ぜんぶまちみる  あ、きれいな

 

 

公園の  思い出残す  人と犬

こうえんの  おもいでのこす  ひとといぬ

レ・ニャット・ヴィ

 

先週は教室で俳句を勉強したけど、今日は教室の外。クラスのみんなと一緒に野毛山公園へ。雲一つない上天気。高台の公園のさらに高い展望台に上る。うわー!港はもちろん、遊園地の観覧車や高層ビルも、そして遠くにかすむ山々も。まずは皆さんと写真を撮ろう。でも、シャッターを押すのはだれ? うん、犬を連れたあのおじさんに頼もう。その人は親切に協力してくれました。犬たちも静かに待っていてくれました。いい思い出 ありがとう、おじさん!ありがとう、ワンちゃん! 

私たちの後に数匹の犬を連れたおじさんが展望台に上ってきました。集合写真を撮ろうとおじさんにシャッターを頼みました。なんという種類の犬でしょうか。ちょっと胴長でもふもふの毛、ふりふりのお尻。おじさんはリードを放しましたが、どこかへ走っていくこともなく、そばでおとなしく見ていてくれました。  

公園で  思い出作る  人と犬

 

 

冬休み  一人ぼっちの  冬休み

ふゆやすみ  ひとりぼっちの  ふゆやすみ

フイン・ティ・チャン・ダイ

 

学校はもうすぐ冬休み。日本人は家族、恋人、友達とクリスマスだ、忘年会だ、お正月だ、それパーティーだ、旅行だと楽しそう。街の灯りもきらきら光ってる。でも私は故郷から遠く離れて一人ぼっち。  

この俳句はダイさんが作ったままです。T先生は手を加えていません。寒い、暗い、冷たい冬。「冬休み」を繰り返すことで一人ぼっちのさびしさ、人恋しさが伝わってきます。

 

 

小鳥と葉  チーチーカサコソ  歌になり

ことりとは  ちーちーかさこそ  うたになり

ブイ・ヴァン・アイン

 

学校からの帰り道、家の近くの公園を通った。枝を飛び交う小鳥たちが見える。チーチーチーチー あっ、シジュウカラだ。白い胸毛に黒いネクタイがよく似合う。足元にはふかふかの落ち葉。

カサコソカサコソ 足元からも歌声が聞こえる。自然の音楽に心が軽くなった。

夏の間、葉を茂らせて小さな風にもザワザワとにぎやかだった木々。今はすっかり葉を落とし、静かです。空が広がり、野鳥観察にはもってこいです。横浜は大都会ですが、ちょっと郊外へ出れば緑が豊かです。自然の音楽に耳を澄ましてみましょう。 

 鳥の音  葉の音を混ぜ  歌になり

 

 

バラの枝  細い体に  つぼみ置く

ばらのえだ  ほそいからだに  つぼみおく

ヴオン・ダック・チン

 

何という種類のバラでしょうか。細い枝がからみ合っています。枝の先には固くて小さなつぼみがいっぱい。緑の葉に隠れていますが、確かに薄いピンク色が見えます。このつぼみがみんな開いたら見事だろうなあ。暖かくなったらきっとまた来る。

野毛山公園は1926年に開園した歴史ある公園です。高台にあって横浜の街を見渡す眺望が楽しめます。その一角にバラ園があり、45種類・約300株のバラが植えられています。春と秋には美しい景色が広がります。公園にはピクニックの出来る広場やバスケットコートや動物園があり、お年寄りも若い人も子供達も楽しめます。

 体は細いが  ばらの枝  つぼみがいっぱい

 

 

好きなこと  できる自由が  幸せだ

すきなこと  できるじゆうが  しあわせだ

ヴ・ティ・ジォン・カム

 

日本語は難しい。学校の授業、予習、復習、試験。アルバイトでたくさん働いても、もらえるお金は少し。生活は厳しい。でも、これは私が選んだ道だ。だれかに強制されたのではない。自由がある。自分で決められる。自由に伴う責任もきちんと果たせる。幸せだ。

カムさんは日本で既に3年。ご両親の援助もあるでしょう。友達や先生に頼ることもあるでしょう。しかし、基本は自由。大人の自分がいる。元気に青春を謳歌してほしいです。 

 すきなこと  やる、これは自由  やったがすき  これはしあわせ

 

 

寒い朝  暖房の音  暖かい

さむいあさ  だんぼうのおと  あたたかい

ホアン・ティ・フエン・チャン

 

冬の朝。冷たい空気の中、歩いて学校へ。吐く息が白い、指先が痛い。う~、寒い寒い! 教室に入ってやれやれ一息。あっ!「ボーッ」という暖房の音。暖かいときは耳障りで迷惑な音が今はありがたい。心に染みる、身に染みる。

窓際に暖房機が4台並んでいる。静かに勉強している時に耳のそばでボーッとかゴーッとやられるとうるさい。そんな音が今朝はうれしい、ありがたい。ははは 人間は勝手ですね。 

 さむいとき  だんぼうの音  あたたかい

 

 

ありがとう  何度も言えば  幸せに

ありがとう  なんどもいえば  しあわせに

ディン・ティ・トゥ・ミイ

 

友達が親切にしてくれた。アルバイトに慣れないときに、友達が助けてくれた。日本語の問題が分からないときに、友達が教えてくれた。ありがとう! そう言えば、友達はうれしい。友達がうれしければ、私もうれしい。ありがとう! ありがとう! 何回言ってもいいんです。友達はうれしい。私もうれしい!

「ありがとう」を漢字で書くと「有り難う」です。「ありがたい」は「有り難い」。「有る」はあるとかないとかそういう意味ですね。「難い」はむずかしいという意味です。そこにあることがむずかしい。反対に言うと、そこにないから感謝する。例えば、空気や水を考えてください。空気も水も私たちに絶対に必要です。なければ死んでしまいます。でも、両方ともいつでもどこでもあります。だから空気や水に対して感謝することはないでしょう。そこにないから感謝する。ありがたい。ありがとう!周囲の人にいつも感謝したいですね!そうすれば自分も幸せです! 

ありがとう  何度も言うと  幸せだ

 

 

青空に  ま白い飛行機  地に日差し

あおぞらに  ましろいひこうき  ちにひざし

ヴ・トゥワン・ダット

 

青空を見上げる。二本の飛行機雲を残し白い機体が高く高く飛んでいく。ふと目を下に向けると日差しがさんさんと降り注いでいる。

青い空、白い機体。高い空、足元の地面。色と視点、二つの対照を見るダット君の意図が素晴らしい。

Bầu trời hôm nay xanh  Thầy cho chúng em đi loanh quanh

     Trời có máy bay trắng   Và dưới đất có những ánh nắng

     今日は空が青い  先生がぶらぶら歩きをさせてくれた 

     空には白い飛行機がある  地面には日差しがある

 

 

秋の日に  心やわらか  もみじの葉

あきのひに  こころやわらか  もみじのは

ブイ・ティ・フエ

 

秋、太陽の柔らかな光が木々に注ぎます。下から見上げると赤や黄色や茶色に染まった葉がまるで黄金のように輝いています。思わず「うわーっ、きれいだな!」勉強、アルバイト 毎日忙しい生活の中で硬くなっていた心が柔らかくなります。

日本を代表する花は桜ですが、その桜は1週間か2週間で散ってしまいます。その点、もみじは長く楽しめます。緑の葉が次第に赤や黄色に染まり、そして茶色へと変わり、やがて秋の深まりとともに散っていきます。木の種類によっても色が違います。ですから、いろいろな木が生えている林や森の中はまるで女性の着物のように多種多様な色と柄が楽しめます。 

 もみじみる  心なだめる  あききせつ

 

 

青空に  デートしたいが  彼女どこ?

あおぞらに  でーとしたいが  かのじょどこ

グエン・チョン・ギア

 

空は青く雲一つない。太陽が輝いて、冷たい風さえ気持ちいい。こんな素晴らしい日に勉強やアルバイトだけじゃもったいない。外に行こう! ねえ、君! 僕とデートしようよ!

う~ん 残念 デートしようと声をかけたいが 僕の彼女はどこにいるんだ?

そらもかぜも良い  いいてんきになって  そとに行こうか

 

 

暗い空  にぎやかな街  迷う僕

くらいそら  にぎやかなまち  まようぼく

ゴ・ティ・フオン

 

今は冬。空は4時半ごろには暗くなってしまいます。風は冷たく頬を刺します。クリスマス、お正月 街は華やかな灯りが輝いています。人々は幸せそうに語り合いながら通り過ぎていきます。そんな中で僕は一人 孤独をかみしめながら考えています。どうしたらいい?

フオンさんの俳句を詠んで、前田夕暮の短歌「空を見て 歩める人は まれまれなり 多くは地を見て 歩みけり」を思い出しました。大きく胸を張って高い空を見上げる時は少ないです。希望を持って前を見ることもできません。足元の小さな地面を見ながら、一人さびしくとぼとぼと歩いて行かなければなりません。人はだれでも苦しい思いを持っています。楽しい時、うれしい時、幸せな時は少ないようです。幸せに見える人たちも本当は地を見て歩いているのです。 

暗い空  にぎやかの町  迷うぼく

 

 

最後には  俳句完成  気持ちいい

さいごには  はいくかんせい  きもちいい

ド・ティ・ホン

 

先週は教室で俳句の勉強。有名な俳句、学生の俳句、俳句の作り方などなど。そして今日は野毛山公園まで。遠く近くに見える鳥や花、肌に感じる水や空気 たくさんの言葉を思いつくが、5‐7‐5に並べるのが難しい。ああでもない、こうでもない。指折り数えてなかなか落ち着かない。う~ん、でも1時間後にようやく完成。

もちろんベトナムにも詩はあります。中でも六音八音が交互に韻を踏む形式が多いです。一方、日本の俳句には韻はなく、五七五の拍で数えます。その韻と拍の違いが皆さんには難しいようです。しかし、感動第一、技術は第二。うまいへたは別にして、自分だけの感動、自分だけの俳句。心に残るでしょう。 

最後までに  はいくがおわり  きもちいい

 

 

白桜 未来に進め 風に乗れ

しろざくら  みらいにすすめ  かぜにのれ

牟宇恒

 

今まさに桜の季節。ピンクというより白に近い桜。風に乗って、遠くどこまでも、高く空いっぱいに飛んでいく。白い桜は僕だ。そして僕たちだ。未来に進め!

桜の季節は卒業の季節でもあります。一人一人道は違うが、だれもが広い未来に向かって進んでいってほしい。私は牟君の素晴らしい俳句を借りて、皆さんすべてを励ましたいです。

 

 

それでは最後に私も

 

野毛山に  春待ちかねて  バラ一輪

のげやまに  はるまちかねて  ばらいちりん

鷹野次長(たかのつぐなが)

 

皆さんと野毛山公園へ出かけた日はきれいな青空の下、太陽が明るく輝いていました。しかし、空気は冷たく春はまだ遠い。バラ園のつぼみは固く閉じたままでしたが、そんな中にたった一つだけ、ピンクの花を咲かせたせっかちさんがいました。まるで「春まで待てないよー」と言っているようでした。(202339日)